MENU
カテゴリー

女性教祖で考える日本の母性

2年ほど前、車で西日本を旅行した際に天理市に寄った。天理教の大きな建物群の見える道の信号で車を止めた時、黒い法被(はっぴ)を着た一群が近くの歩道を歩いていた。天理市には何度も来たことがあり、おなじみの光景であった。しかし、今回驚いたことに、彼らが楽しげに話していた言葉は韓国語であった。

韓国の宗教が日本に入ってきていることは知っていたが、日本から韓国に行っているとは意外であった。そして、まだまだそこには信者を集める力があるんだなと、なんだか(部外者なので思いっきり筋違いだが)ちょっと誇らしいような気分になった。

天理教の開祖は中山みきという江戸時代末期から明治に生きた女性である。この時代、日本では女性を開祖とする巨大な新興宗教が複数出来上がった。しかし、世界的に見ると、同時期に女性を開祖とする複数の宗教が大きな規模に成長するということはまずありえないことらしい。

世界的にメジャーな宗教を見ても、開祖はすべて男性である。キリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教……このあたりは、開祖のみならず、聖職者も基本的に男性によって占められている。

そうした古来からある宗教に加えて、新興宗教が多い国というものがある。中でも、日本・韓国・台湾・ブラジル・アメリカが多い国というふうに言われている。しかし、新興宗教であっても日本を除くこうした国において、やはり開祖は圧倒的に男性なのである。日本だけ女性開祖が存在感を放っているのである。

こここで日本における江戸末期から昭和中期までの主な新興宗教の表を見ていただきたい。

宗教名年代創始者名
如来教江戸後期〜幕末きの
黒住教1814年黒住宗忠
天理教1838年中山みき
金光教1859年金光成行
大本教1892年ごろ出口なお
出口王仁三郎
一燈園1905年ごろ西田天香
念法眞教1925年ごろ小倉霊現
霊友会1920年代久保角太郎
小谷喜美
孝道教団1936年岡野正道
岡野貴美子
立正佼成会1938年庭野日敬
長沼妙佼
生長の家1930年谷口雅春
世界救世教1935年岡田茂吉
真如苑1936年伊藤真乗
PL教団1920〜30年代御木徳一 ほか
佛所護念会教団1950年関口嘉一
関口トミノ
妙智會教団1950年ごろ霊友会系指導者(男性中心)
円応教戦前起源深田千代子
創価学会1930年(前身)牧口常三郎
戸田城聖
天照皇大神宮教戦前起源北村サヨ
崇教真光1959年岡田光玉

日本でもたしかに男性の方が多い。しかし、海外ではもっと圧倒的な差がある。具体的な数値データは見つからなかったが、一般的に宗教の開祖と言えば男性で、女性開祖は例外的な存在なのである。アメリカの新興宗教についてCatherine Wessingerは以下のように言う。

“Charisma has the effect of cutting through the restrictions of patriarchy for the exceptional woman believed to possess it.”

「カリスマがあると信じられた例外的な女性は、父権制の縛りを越えることができる。」
— Catherine Wessinger, “Charisma and Credentials: Women’s Religious Leadership in America,” Yamauchi Lecture in Religion, Loyola University New Orleans, Oct. 28, 2007, p. 1.

女性開祖は例外的存在なのである。その理由として、ここにpatriarchy「父権制」とあるように、アメリカが父権制の強いキリスト教圏であるということが大きく作用していると考える人は多いだろう。しかし、キリスト教系の新興宗教でなくとも、実態はほとんど変わらない。。

新興宗教と言えど、既存の宗教の系列に収まることは多く、国によってその傾向は異なる。上述のアメリカはキリスト教系が多数派、日本では多くが仏教系、韓国ではキリスト教系・仏教系・儒教系・土着系が併存、台湾は道教・儒教・仏教の折衷的な新興宗教が多いと言わる。同じく新興宗教の多いブラジルはキリスト教(カトリック)の影響を受けつつも、様々な形態の宗教が混在している。

江戸末期から明治にかけての日本の女性開祖は、開祖自身が神がかり的な状態になったことが創始のきっかけになっている。つまりシャーマン的な人物が宗教を創始したと言える。実際、古来から日本にはイタコやオガミサマ、ユタといったシャーマンが存在し、その多くは女性であった。こうしたシャーマンを信じる土壌があったために、受け入れられ、信仰されるようになっていったと考えられる。

しかし、そうしたシャーマンが存在したのは韓国でも同様である。韓国における女性シャーマン(ムーダン)は19世紀以前から活躍しており、日本よりも遥かにメジャーな存在として現在でも数十万人いると言われている。そのうえ、日本よりも新興宗教が多いと言われている。なのに女性開祖は極めて少ない(一方、台湾のシャーマンは男性の方が多く、ここでの比較には使いづらい)。韓国におけるいくつかの新興宗教は、女性の「神がかり」が起点でありながら、宗教のトップは男性であり、女性の存在は小さくしか語られないケースがいくつか見られ、結果的にどの宗教も男性が中心になる。

一方、天理教の開祖である中山みきの場合、後に組織の運営は男性が行うようになるにしろ、あくまでも中心は中山みきである。そして全人類の生地として天理の地を設定し、「おじば帰り」と称したり、また教祖のことを「おやさま」と呼ぶことなど、教義の中に「母」イメージが占める割合が大きい。こうした教義内容を生み出したものと、女性開祖の存在は日本文化の土壌に含まれる同じ要因から生まれているのではなかろうか。

少なくとも女性開祖の多さは、海外では見られない特徴であり、これは日本文化における「母」の位置づけに、諸外国とは明確に異なった特性があるということが示されていると考えられる。

  • URLをコピーしました!
目次