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AIは怪談を作ることができるか

ネット上の心霊(ホラー)コンテンツは盛んな状態が続いており、すでにブームの域を超えていると言ってもよいだろう。最初に勢いがあったのが心霊スポットを巡る「心霊系ユーチューバー」であった。その後、数年のラグを挟んで最近は「怪談」コンテンツが人気なようである。

「恐怖」とは、言葉ですくい取れないものであり、人間の心の奥底、もしくは体で感じ取るものである。私のよく聴いている怪談ユーチューバーさんは怖い話を聴いたり語ったりする時に「ほら」と自分の腕に鳥肌が立っているところを共演者に見せている。

「心霊現象」というものが現実に存在するかどうかはともかく、それに対する恐怖は明確に存在する。そして、このあたりは、もっともAIの手の届かない分野である領域であると思う。AIには身体も体験もない。膨大なビッグデータによって構築されたAIの言語体系があり、その体系がもっともカバーしがたいところにあるのが、怪談によって引き起こされる人間の主観的感覚なのではないか。

それに加えて、そもそも昨今の怪談は、実話であることが前提(建前)である。AIに作らせたと判明した怪談は、もうその価値はゼロであると言って良い。ただ、それでもAIの作った怪談を実体験であるというふうに偽って話すことはできる。

AIに作り物だとバレない怪談を生成させることは可能だろうか?

実体験として語っても嘘とバレないような怖い怪談話を作って」というプロンプトでAI(Gemini)がどんな怪談を作ってくれるか見てみよう。

ちょっと前にあった変な話なんだけどさ。

以前住んでたマンションでのことなんだけど、その日、残業で帰りが深夜2時くらいになっちゃって。すごく疲れてて、早く寝たいなーと思いながらエントランスを入って、エレベーターに乗ったんだよね。

俺の部屋は7階だったから『7』のボタンを押して、ドアが閉まった。 そしたら、途中の4階でエレベーターがスッと止まったの。 深夜だし、こんな時間に誰か乗ってくるのかなと思ったら、ドアが開いても誰もいない。

ああ、誰かがボタンを押した後に階段で降りちゃったのかな、よくあるやつだ、と思って『閉』ボタンを押したんだ。

ドアが半分くらい閉まりかけたんだけど、突然またスッと開いたの。誰かが駆け込んできて、ドアの間に手を入れた時のあの感じ。 だから俺、反射的に『あ、すみません』って言って『開』ボタンを押さえたんだよね。

でも、誰も乗ってこない。 ちょっと気味が悪くなって、顔を出して4階の廊下を左右に見てみたんだけど、しんと静まり返ってて本当に誰もいない。

気のせいか……と思って、今度は『閉』ボタンを長押しした。 ドアが完全に閉まって、エレベーターが上に動き出そうとガクンと揺れた瞬間。

『ピーッ』

って、重量オーバーの警告音が、1秒くらい短く鳴ったんだよね。 俺、一人しか乗ってないのに。

さすがに怖くなって、すぐ次の5階のボタンを連打して、そこで降りて階段で7階まで駆け上がったよ。 あれ、ただのセンサーの故障だったと思いたいんだけどね……

絶対に嘘とバレない怪談としてはほぼ完璧である。センサーの不具合という可能性も残しつつ、見えない何かの存在を想像してしまう。

強いて言うならば、重量オーバーという部分は、心霊的な怖さとは相容れない。太った幽霊があまり怖くないように、大きな質量を持つものは、「怨念」「情念」といった心霊の本質とは真逆にある。むしろ太った透明人間のようなものを連想してしまう。このあたりがわからないのがクオリアを持たないAIの弱点ではあるが、そのあたりの微妙なノイズが、逆にリアリティを増しているとも言える。

もう一つ頼んでみた。

この前、休みにキャンピングカーでちょっと遠出して、山あいの静かな駐車場で車中泊をした時の話なんだけど。

夜中、ふと目が覚めたんだよね。周りには街灯もなくて、遠くに大型トラックが1台停まってるだけの本当に静かな場所で。 寝直そうとして寝袋に潜り込んだ時、頭上から『ピタン……ピタン……』って音が聞こえてきたの。

乗ってる車がハイルーフ仕様で天井が2メートル以上あるんだけど、その屋根の上を、何かが歩いてるんだよ。 最初は鳥か猿かと思ったんだけど、音が妙に重いし、何より『裸足の人間』が歩いてるような、ペタッ、ペタッっていう水分を含んだような音でさ。 それが、車の後方からフロントガラスの方に向かって、ゆっくり移動してくる。

木の下に停めたわけじゃないから上から落ちてくるはずはないし、そもそもあんな高い屋根に、サスペンションを揺らさずに飛び乗れるわけがない。 息を殺してベッドで横になってたら、運転席の真上あたりで音がピタッと止まったの。

そのまま怖くて朝まで一睡もできなかったんだけど……翌朝、外に出て恐る恐る屋根の上を確認したら、子供くらいのサイズの手形がたくさんついてたんだよね。足跡じゃなくて、手形だけ。

充分怖い。足跡ではなくて手形というオチが、常識ではあり得ない体勢を想像させてくる。惜しいところは、車のルーフに裸足の人間が乗ったとして、車の中にいる人の耳に聞こえる音は「ピタンピタン」や「ペタッペタッ」ではないという点だ。しかし、こうしたAIが実体を持たないがゆえの弱点も、いずれ克服されていくのではなかろうか。

AIが普及するに従って、人々はより、実体験の語りを求めるようになるだろう。そして、そのような「語り」の中でも、手軽で、かつ強烈なものとして「怪談」が好まれることは今後も続くだろう。しかし、非常に残念なことにAIも怪談が作れてしまうのだ。

知りたくなかった事実である。

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