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【ネタバレ】タコピー最終回で考えるカウンセリング

◎非常に刺激の強い作品なのでご覧になるかどうかの判断は慎重になさってください。

目次

過酷な日常

ねえ、こういうこと誰に言えば良かったの?
誰も私のことなんて見てなかったじゃん
ねえ、全部!全部!全部!!
一体どうすれば良かったって!言ってんだよ!!!

ハッピー星から来たタコピーは、北海道に住む小学4年生のシズカちゃんをハッピーにしようとします。

タコピーは「ハッピー道具」という魔法の道具を使って、シズカちゃんを喜ばせようとしますが、シズカちゃんはそれに興味を示しません。

人を助けたいと思った時、私達は自分の得意分野を活かして相手に働きかけようとします。だからタコピーもハッピー道具を使ってシズカちゃんを助けようとします。しかし本当に重い苦しみを抱えた人は、そのような他からの働きかけによって助けられるとは限らないのです。

しずかちゃんの両親は離婚していて、ママと二人で暮らしています。ママは家に居ないことが多く、あまりシズカちゃんの面倒を見てくれていません。また、学校ではマリナちゃんという子に精神的にも肉体的にも激しく攻撃されています。

そして家にはもう一人、お父さんが残していった犬のチャッピーがいます。シズカちゃんはチャッピーのことが大好きです。どれだけ辛いことがあってもチャッピーがいれば耐えられると感じています。

しかし、そのチャッピーはマリナちゃんの策略で捕まって保健所で殺処分されてしまいます。ママはシズカちゃんに本当のことを伝えるのが面倒なので「パパのところで預かってもらっている」と嘘をいいます。シズカちゃんはそれを信じます。

タコピーの故郷であるハッピー星はみんながハッピーな星なので、タコピーはシズカちゃんの苦しみがなかなかわかりません。でも、「ハッピーカメラ」でタイムスリップを繰り返し、何度も失敗しながらシズカちゃんと一緒に同じ体験をして、少しずつシズカちゃんの状況を理解していきます。そして、ハッピー道具がシズカちゃんをハッピーにするためにはあまり役に立たないことを知っていくのです。

残酷な現実

唯一、タコピーがシズカちゃんに感謝されることがありました。

いじめっ子のマリナちゃんを「ハッピーカメラ」で殴って殺してしまった時です。「ハッピーカメラ」は物語のキーになるタイムスリップの道具ですが、そこでは単なる凶器でした。そしてその殴った衝撃によってハッピーカメラは壊れてしまいました。なので、マリナちゃんは生き返りません。

マリナちゃんからの激しいイジメがなくなり、シズカちゃんは元気になります。そしてお父さんのいる東京に行くことを思いつきます。タコピーも一緒に行きます。そこには大好きなパパとチャッピーがいるはずです。

夏休み、シズカちゃんたちは大きな希望とともに東京に向かいます。

しかし、お父さんのマンションを訪ねたシズカちゃんは、【お父さんが再婚していて子どもが2人いて、しかもチャッピーはいない】という過酷な現実を突きつけられます。

その結果、シズカちゃんは暴走し始めます。

あの子どもたちが、チャッピーを食べちゃったのかも。
タコピーも落ちてるセミとか食べるじゃん。そうかも知れないよね。

シズカちゃん……
じゃあ、チャッピー取りに行ってあげないと。人間を捕まえて胃の中を調べる道具、出して。
わ、わかんないっピ。そんな道具はないっ
えー、嘘だ。じゃあいいよ。私が考えるから。
(タコピーを抑え込んで道具を拾い上げ)あ、これならバレずに夜に忍び込めるし……
シズカちゃん、ボクの話を……シズカちゃん……もう帰ろう。
ごめんね。

ボクが頭が悪くてダメダメだっから、シズカちゃんがこんなぼろぼろになるまで頑張らせちゃった。
ごめんね。

だからもう帰ろうッピ。それに楽しく遊べる道具なら出せるっ
「パタパタ翼」でちょっとだけ浮かんだり、「変身パレット」でイモムシに変身するのもきっと楽しいっぴから。
もとのシズカちゃんに戻って欲しいっ
ボクはただ、君に笑ってほし…

ふーん、タコピーも、もう助けてくれないんだ。じゃあもう良いや。

シズカちゃんはお父さんの家に行きましたが、そこで見た現実をそのまま受け止めることができず、【お父さんの子ども達がチャッピーを食べちゃったに違いないから子ども達の胃の中を調べる】と言い出します。

それに対してタコピーは「ボクが頭が悪いせいでダメダメだっピからシズカちゃんを頑張らせちゃった」とか「もとのシズカちゃんに戻ってほしい」「君に笑ってほしい」と言います。タコピーはとても善良な宇宙人ですし、タコピーが望んでいることはシズカちゃんの幸せであることは間違いありません。しかし、タコピーの言葉はタコピー自身のことにしか触れていないのです。

「ボクが頭が悪くてダメダメだっピから。シズカちゃんがこんなぼろぼろになるまで頑張らせちゃった」というのは『ボクの頭が良ければシズカちゃんはもっと楽にやれた』という意味になります。「もとのシズカちゃんに戻ってほしい」というのも「君に笑ってほしい」というのも『ハッピー道具でシズカちゃんを楽しませたい』のもタコピーの願望です。

つまり、ここでのタコピーの言葉は『ボクの力』や『ボクの願い』にしか触れていないのです。肝心なシズカちゃんの気持ちをには触れていないのです。

でも、かと言ってタコピーを単純に責めることもできません。「人間を捕まえて胃の中を調べる道具、出して」などと言われたら大抵の人は、相手の気持に耳を傾けるなどということはできません。気持ちに耳を傾けたら、シズカちゃんの暴走はさらに激しくなるんじゃないかと思ってしまいます。

……そして、このやり取りのあと、タコピーはシズカちゃんに殴られて気絶しました。そして気づくとシズカちゃんの姿はありませんでした。

「ハッピー握手」しかない

時は流れて8ヶ月後、シズカちゃんとタコピーは再会します。

どうやらシズカちゃんはお父さんの子ども達の胃の中を調べたあと、彼らを開放し、北海道に帰ってきました。シズカちゃんはまだチャッピーを探し続けていて、「保健所の人の胃の中も調べる」と言います。

タコピーはそれを止めます。するとシズカちゃんは……

じゃあどうすればよかったの?
知らない人みたいな顔で私のこと見てたお父さん
どうすればよかったの?

私だけのお父さんじゃなくなってたら
どうすればよかった?

(中略)
「お家の人呼んで」ってお家に誰も居なかったら……どうしたら良いの?
ねえ、こういうこと誰に言えば良かったの?
誰も私のことなんて見てなかったじゃん
ねえ、全部!全部!全部!!
一体どうすれば良かったって!言ってんだよ!!!

わかんないっピ。
は?
ごめん、シズカちゃん、ボクには難しくってわかんないっ
ふざけんなよ、なんだよそれ
どうしようもないじゃん、さわんなよ

「ハッピー握手」だっ……

シズカちゃんは最初は冷たい眼差しでタコピーを見下ろし、そして踏みつけ、問いかけます。そして段々と声が大きくなっていき、叫び始めます。涙がとめどなく溢れます。シズカちゃんは答えが知りたいのではなく、自分の苦しみをタコピーに思いっきりぶつけているのです

心に深い傷を負っている人が自分の苦しみを相手に本当に伝えたい時、言葉で伝えるだけではなく、相手にも自分と同じ辛さを味わわせたいと願います。こういうときはもう相手のことを信頼しているのか憎んでいるのかわからない状態です。だからシズカちゃんはタコピーに激しい暴行を加えているのです。

タコピーが味わっている痛みは、シズカちゃんの痛みでもあるのです

そしてタコピーに全てをぶつけていくうちに、ここで初めてシズカちゃん自身、自分がいかに苦しかったかを認めていくのです。こうやって気持ちを誰かにぶつけることで、自分の気持ちをわかっていくのです。

一方タコピーはただぶつけられるだけです。ひたすらシズカちゃんから言葉をぶつけられ、蹴られ、大きな石で殴りつけられます。そしてシズカちゃんの問いに「わかんないっピ」と答えるしかありません。

ただ、言えることは、「どうしたら良いか」に対して本気で「わかんない」と答えるために、シズカちゃんの気持ちや置かれた状況を本当にわかっていなければならないということです。

シズカちゃんの日常がどれだけ過酷だったか、シズカちゃんがお父さんにどれだけ期待していたか、シズカちゃんがどれだけチャッピーに会いたかったか、シズカちゃんはそれ以外にどうしようもなかったことがわかっているから、「わかんない」と答えるしかないのです。

われわれ治療者は自分の弱点を通じて対決させられることが多い。われわれは自分の弱点で勝負をするのである。

河合隼雄の有名な言葉がここで思い出されます。本来のタコピーの得意技はハッピー道具を駆使して相手をハッピーにしてあげることです。しかし、重い悩みを抱えている人に対して「してあげる」のは往々にして無意味です。その人を助けたいと思ったら、その人自身のタイミングで出してくる表現を全力で受け止めるしかないのです。

ハッピー道具を使えないタコピーは弱点の塊です。小さくて力が弱くて気の利かないタコ型宇宙人でしかありません。だからタコピーはシズカちゃんから渾身の力でいろんなものを叩きつけられても受け止めるしかありません。

できることといえば「ハッピー握手」だけです。

「ハッピー握手」は魔法ではありません。ただ手を繋ぐだけです。なんて地味なんでしょう。でもそれはもう弱点しか残っていないタコピーが唯一できることなのです。ハッピー道具でみんなをハッピーにするという使命を帯びて地球に来た時のタコピーは、こんなやり方でしか相手の役に立てないことになるとは思ってもみなかったでしょう。

しかし、これが河合隼雄の言う「弱点で勝負をする」ことだと思うのです。かっこいいことでは勝負させてもらえないのです。

そして、ここからなにかが確実に変わっていくのです。

ありのままの現実

ごめんね、ごめんねシズカちゃん
何もしてあげられなくてごめんっ
でもいつもなにかしてあげようとしてごめんっ
シズカちゃんの気持ち、ボク全然わかんなかったのに
ボク、いつもお話聞かなくてごめんっ
何もわかろうとしなくてごめんっ
シズカちゃん、一人にしてごめんっ

(呟くように)うるさい……うるさい……うるさい
シズカちゃん……
そんなこと言ったって、もうパパ戻ってこないじゃん
ママは私のこと好きじゃないじゃん
チャッピーも戻らないじゃん
もう全部だめなんじゃん

シズカちゃん……シズカちゃん……

タコピーはシズカちゃんと向き合う覚悟ができました。するとシズカちゃんには何もしてあげられないということがわかりました。そして何かしてあげようとするあまり、シズカちゃんの気持ちをわかろうとしてこなかったことがわかりました。タコピーは相手をハッピーにするという自分の目的にこだわるあまり、シズカちゃんを一人ぼっちにしてきたことがわかりました。

そして、シズカちゃんは自分の気持がタコピーに伝わったことがわかった。自分にはこうする以外どうにもならなかったということがタコピーにわかってもらえた。タコピーが自分と向き合ってくれていることがわかった。

しかし、だから何だというのでしょう?
現実は何も変わりません。

むしろ、わかってもらえたことによって、絶望的な現実が誤魔化しようもなく、はっきりと見えてしまったじゃないか。

「パパは戻ってこない」
「ママは私のことが好きじゃない」
「チャッピーも戻らない」

……たぶん、その通りです。

でも、ここでシズカちゃんはタコピーと一緒に初めて現実をありのままに見ることができたのです。

こんな残酷な現実を一人で見るなんてムリです。タコピーがいたからそれができたのです。自分をわかってくれる存在があったからそれができたのです。そして同時に、ありのままの自分の気持ちを受け入れることができたのです。

だからあんなにも涙がとめどなく溢れ出たのです。

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