夢占いと夢分析の違い -説明編-

目次

はじめに

ここでは夢についてかなり綿密に語りますが、私自身のカウンセリングでは、夢を一度も話されない人もいますし、夢を話される人であっても毎回ではありません。夢を話していただくのは、忘れようとしても忘れられないような夢を見た時や、そこまでではなくとも無理しなくても覚えていられるくらいの夢を見た時に限るのが良いと思っています。

無理しなくても覚えている夢というのはそれだけ夢の内容がまとまっていて覚えやすく、かつ夢を見た人が抵抗なく理解できる内容であると考えられるからです。夢には色んな情報が詰まっていて、その上に夢を見た人に「変化」することを要求してきますから、毎回夢を扱っていると混乱してきたり、感覚が麻痺してきてしまうことがあります。そのため短期間にたくさんの夢を分析することが必ずしも良いとは限りません。

夢占いと夢分析の歴史

人間が見ている世界には、「目覚めている時の世界」と「眠っている時の世界」があります。現実世界と夢の世界。この2つの世界はどういう関係にあるのか。人は大昔からごく自然にその謎に惹きつけられてきたのではないでしょうか。


夢を占うための書物は古代文明の時代にすでに書かれており、古代エジプトでは、夢の解読を仕事とする者もいたようですので、少なくとも夢占いには4千年の歴史があると考えられます。


一方、心理学的アプローチとしての夢分析は、精神分析学を始めたフロイトが人間の深層心理を知るために夢が有効であると言い始めた(1899年;「夢判断」の発表)のが最初であり、歴史としては120年ほどと言えるでしょう。


フロイトが古来の夢占いとは全く別に精神分析学としての夢分析を提唱したことを考えれば、夢占いと夢分析は別物と捉えることは出来ます。しかし、夢占いは非常に長い歴史がある上に、近年はフロイトやユングの夢理論も取り入れており、夢占い側からは、それらの夢理論も夢占いの一つとして位置づけているようです。

また何より、夢の理論とは心の理論であり、その理論は古代の夢占い師たちが、それぞれの心の体験を元に作り出したものです。同様に精神分析学はフロイトが、分析心理学はユングが、彼ら自身の心を観察することによって作り出したものと言えます。したがって、夢分析側からしても、古来の夢占い師たちが作り出した夢理論を根拠のないものとして無視するのは不誠実な態度と言えます。

Sigmund Freud

夢占いと夢分析は何が違うか

非常に単純な見分け方は、占い師がするものを夢占い、心理カウンセラーがするものを夢分析とするものです。多くの人はそういうふうにしか見分けられないのではないでしょうか。もちろんそれは夢占いと夢分析の本質的な違いとは言えません。ここでは、夢を解釈するのが占い師かカウンセラーか関係なく「夢占い的」とはどういうことか、「夢分析的」とはどういうことかを理解していただけるよう、いくつかのポイントに分けてお話したいと思います。

しかしそれらのポイントは、「〇〇ならば夢占い」と「△△ならば夢分析」というふうに、明確な基準を示すわけではありません。たとえば、ポイント5のシンボル解釈ですが、「シンボル解釈をしたらそれは夢占いである」というふうには言い切れません。確かにシンボル解釈は夢占いに多いとは言えますが、夢分析でも用いられるからです。

したがって、「より夢占い的な傾向」「より夢分析的な傾向」を明らかにすることによって、夢占いと夢分析の違いを描写していきたいと思います。

ポイント1 「現実」か「心」か

「夢占い的」 夢を読み解くことで現実を言い当てることができる。
「夢分析的」 夢を読み解くことで心の中を理解することができる。

夢占いでは、夢が直接現実を表していると考えることが多いようです。一方、夢分析では、夢はそれを見た人の心の中を示していると考えます。

一見すると「現実」と「心の中」という単純な違いですが、考え始めるとなかなか複雑な問題を孕んでいます。たとえば、ほとんどの人は心を通さずに「現実」を認識することは出来ません。つまり「現実」も広い意味では心の中の現象であって、人の心の数だけ現実があるという考え方もできます。そのため、夢占いは心の存在を「言うまでもないこと」として省略し「夢は現実を表している」と言い切っているのだとも言えます。

しかし、夢分析は心理カウンセリングですから、あくまでも無意識を含めた「心」に焦点を置きます。そしてその「心」が何を表現しているのかを読み解いていくという形式を取ります。もちろん「心」は現実を認識しますから、結果的に客観的現実をも言い当てる場合も出てきます。しかし夢が必ず現実を表しているとは考えませんし、夢分析は現実を言い当てることを目指してもいません。

ポイント2 「未来」か「現在」か

「夢占い的」 夢は未来を予知する。
「夢分析的」 夢は今の心の状態の表現である。

「占う」という言葉には未来予知の意味がありますから、当然夢占いは未来予知に重点が置かれます。

一方の夢分析は、現在の心の状態にウェイトを置きます。ただ、現在の心は基本的に今と未来の方向を向いています。そのため、夢分析から見ても、夢が未来を予知していることは往々にしてあります。また、過去のことが夢に出てくることもありますが、それはその過去を思い出すことが、今と未来に必要なことだったから出てきたのだと考えます。

ポイント3 根拠を言うか言わないか

「夢占い的」 判断の根拠を言わないことも多く、異論は期待されていない。
「夢分析的」 解釈の根拠はできるだけ伝え、異論を歓迎する。

夢占いでは、占い師がしばしばそうであるように、そう判断した根拠を言わないことがあるようです。
しかし、夢分析では何らかの解釈を伝える際にその根拠とともに伝えます。

一般にカウンセラーは解釈に異論があったら遠慮なく言ってほしいと考えています。根拠を言わない解釈に異論を唱えても水掛け論になってしまいますし、またいずれ相談者が自分一人で夢を解釈できるようになれればそれに越したことはないと考えていますので、そのためにも根拠を伝えることは大切だと考えます。

ポイント4 読み解いた内容を告げるか、その内容に基づいた対応をするか

「夢占い的」 読み解いた内容を一度に伝える。
「夢分析的」 読み解いた内容をタイミングを測って伝えたり、態度で伝えたりすることもある。

夢占いでは、読み解いた内容を告げて終わることが多いようです。たいていの場合、夢占いは「夢=未来の現実」と考えますから、その現実を伝えるだけで「予知」という十分価値のある仕事を成しているのでしょう。また、占い自体は1回で終わることが多いため、夢解釈から得られた情報はその1回のうちにできるだけ多く相談者に伝えるという形になりやすいとも言えるでしょう。

一方の夢分析では、夢は具体的な現実を示しているのではなく、上でもお話したように「心」の状態を表していると考えます。しかし「心」には形がないので、とても伝わりにくいものです。ですので、カウンセラーが読み取れたことを全て伝えても、相談者は知識として理解するだけに終わってしまうかも知れません。そのため、読み取った内容を一度に伝えるよりも、理解しやすいタイミングを待って伝えた方がより良い場合も多いのです。あるいは、言葉より態度で伝えた方が望ましい場合もあります。たとえば、ある相談者の夢が「心の中の2つの部分が長い戦いを続けている」とカウンセラーが読み取れるものだったとします。その場合、その読み取れた内容を告げることとともに、カウンセラー自身が相談者の中にある2つの部分それぞれを理解し、友好的に向き合う態度を取ることが大切なことだと考えます。

ポイント5 シンボルか構図か

「夢占い的」 シンボルで解釈をする
「夢分析的」 構図で解釈する。

シンボルによる解釈とは、あるモノや事柄が夢に登場したらその夢はこういう意味といった解釈の仕方です。たとえば、夢の中に吊り橋が出てきたら「吊り橋は危険な状態のシンボルだから、この夢を見た人は危険な状態にある」といったふうに解釈するのがシンボル解釈です。
一方、構図による解釈とは、夢の中の物語に繰り返し出てくる構図に着目するものです。たとえば、一つの夢の中に「吊り橋」だけでなく「握手」「電話」と「結婚式」が出てきたとします。そうすると、この夢は全体的に「二つがつながる」という構図ではないかと考えられます。つまり、「吊り橋」は岸と岸を繋ぐものですし、「握手」は二人の手と手をつなぐものです。電話も会話によって二人をつなぐものです。そして「結婚式」は二人が(もしくは双方の家族が)つながる儀式であるのは言うまでもありません。そしてその夢は、「二つがつながる」という構図を土台に、読み解かれることになります。
シンボル解釈はシンボル辞典や、解釈する側だけが持つ知識を使って解釈しますから、異論を唱えても最終的には「夢辞典にそう書いてあったから」「経験上そうだから」というふうになりがちです。しかし、構図による解釈は特別な知識を必要としませんから夢を見た人と解釈する人は対等な意見交換が出来ます(夢を読み解く技術は必要ですから、厳密には同じ条件ではありませんが)。

ポイント6 一部を取り上げるか、できるだけたくさんを取り上げるか

「夢占い的」 登場物の中から一部を選びとってそれを解釈する。
「夢分析的」 登場物を出来るだけ多く使って解釈を組み立てる。

大抵の夢には人・物・行為・場所などの登場物があります。夢占い的なシンボル解釈では、その中の一部の登場物を選んでシンボルとしてその意味を解釈します。
一方、夢分析では出来るだけ多くの登場物を使って解釈をしようとします。ポイント5で述べた「吊り橋」を例に取ります。その夢の中の吊り橋の意味は「危険」かもしれませんし、「高さ」かも知れませんし、「揺れ」かもしれませんし、「狭さ」かも知れません。吊り橋だけで解釈しようとすると、どの意味で解釈したら良いのか本当はわからないはずなのです。しかし、前述のように「電話」「握手」という登場物の共通点(「二つがつながる」)が見つかれば、その共通点は複数の根拠を持つ信頼できる解釈だと言えます。あるいは特定の意味で解釈することによって他の登場物とストーリー的に一貫性が得られればそれによって解釈する夢もあります。夢分析は基本的に夢の解釈の根拠を夢そのものの中に求めます。そして複数の根拠がお互いに補強しあって解釈に妥当性を持たせます。しかし、そうした共通点や一貫性が見つからない場合、残念ながら「分かりません」と言わざるをえない場合も出てきます。

夢占いと夢分析の違い-実例編-」に続きます

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